問題:
オーストラリアの公共交通サービス分野は、連邦政府によるインターモーダル(共同一貫輸送)統合と主要インフラ投資は人口統計の変化に対応して変化しつつあります。新たな課題に取り組むため、公共交通機関は顧客の視点から鉄道ネットワークの動きを理解する必要がありました。交通機関でのスマートカードの普及により、こうした調査を実施するための環境が整い、必要な情報を収集することができます。
公共交通会社はPwCオーストラリアを採用して、鉄道インフラの顧客の視点を提供し、鉄道ネットワークの運用に対する現在の事故の影響とその状況の改善方法を理解するのに役立つソリューションを開発しました。具体的には:
- 事故に影響を受ける顧客の数(例えば、列車の脱線、列車モーターの故障、急病人による緊急事態)の推測。
- 事故が発生したときの鉄道ネットワークの動作を理解するために、事故の上位レベルのネットワークビューを取得。
- 顧客がネットワークのいる場所に応じて、事故に関連する電車の遅れをより正確に予測。
- 事故時の予想対応時間、リソース配分及び優先順位設定等に関する運用とメンテナンス方法の決定をサポート。
- なぜこの場所で、又は、車両タイプで、より多くの事故が多く発生するのか、その根本原因を特定。
PwCのコンサルタントは、駅、列車の動き、事故、顧客の移動をシミュレートする鉄道ネットワークのモデルを構築することに決めました。
解決策:
コンサルタントは、モデル構築の際に、列車の動き(離散事象モデリング)と人の行動(エージェントベースモデリング)の両方を組み合わせてモデル化する必要性を感じ、1つのモデル内で様々なシミュレーション手法を組み合わせて使用することができるAnyLogicソフトウェアを選択しました。2つ目の理由はスケーラビリティです。AnyLogicで、新しいネットワーク開発計画に適合したモデルを開発することで、様々なデータを入力して新システムがどのように機能するかを実験することができます。
モデルの入力データは、交通会社、政府、公的に入手可能な情報源から入手したもの:
- 鉄道ネットワークレイアウト(信号、線路の形状、駅、乗降場)
- 列車のデータ(列車タイプと輸送能力)
- 時刻表(ルート、列車の種類、列車本数)
- ネットワークを回復するための業務規定と気温が高い時期の速度制限
- 事故データ(事故のタイプ)
- 乗客データ(スマートカードデータ及び既存の利用統計情報)
AnyLogic Rail Libraryを使用して列車運行ロジックを再現しました。また、このプロジェクトの特別な局面を考慮して、PwCはAnyLogicで作成したカスタムライブラリコンポーネントを利用しました。
まず、モデルは、鉄道ネットワーク上の各駅(顧客の行先を含む)で待機している顧客数と、各列車内の乗客数を表示した駅での顧客のネットワークビューを提供しました。
さらに重要なことは、このモデルは、鉄道ネットワークの事故復旧作業関連する時間を分析できるように設計されていることです。 インシデントが鉄道で発生すると、特にラッシュアワー時に、長引く遅延を引き起こす可能性があります。インシデントから鉄道ネットワークが完全に回復し、最初の問題が解決された後、スケジュールどおりにすべての列車が稼動するまでには、数時間かかる場合があります。そのため、鉄道ネットワーク全体で各インシデントの影響の長さを明確に示し、ユーザーが様々なインシデント軽減ポリシーをテストして比較できるようにするネットワークインシデントグラフをモデル出力に含めることが不可欠でした。
収集された主なデータは、特定の列車又は鉄道ネットワークセグメント内の全ての列車の遅延分の合計として計算されたLost Customer Minutes(LCM)で表されました。これらの時間的ロスをLCMで定量化することは大変重要でした。 (例えば、ラッシュ・アワーと週末では、異なるLCM値を持っていました)。
出力には列車グラフが含まれています。これは、列車の動きを表す従来の方法です(写真参照)。さらに、コンサルタントはシステムで発生するプロセスをビジュアルに見せるGISマップを使用してモデルをアニメーション化しました。列車グラフとネットワークのアニメーション表示:
- ネットワーク上の列車の位置
- 列車が時刻表とおり走行する否か
- 列車が戻ることができるか否か
結果:
このモデルにより、ユーザーは乗客中心(Passenger-centric)の観点で測定した遅延時間を計算することができました。これは、LCMを過少或いは過大評価する従来の電車中心(Train-centric)の方法よりもより正確です。この乗客中心のアプローチは、エージェントベースのシミュレーションの使用により可能となりました。
クライアントは、事故がネットワークの動作に及ぼす影響を測定し、事故の緩和をより効果的にテストおよび形成することができました。(例えば、列車内の急病人に迅速な医療援助を行い、遅延を最小限に抑えるため、その場所に派遣する緊急チームを設定など)また、影響を受ける乗客人数に応じて事故反応の優先順位付けるプランに役立ちました。シミュレーションモデルにより、事故による遅延で予測される影響に応じて、投資を評価することができます。
また、顧客に焦点を当てた1つの遅延指標としてLCMを導入することで、輸送会社はその組織内に顧客に焦点を当てた目標とKPI(重要業績評価指標)を作成できました。
コンサルタントは、将来的にこのモデルを基に、他の輸送手段や将来のネットワーク要素で拡張したり、駅の乗客の物理的な動きをシミュレートして、プラットフォーム内での混雑問題を調査する予定です。
AnyLogicコンファレンス2014でのArtem Parakhineによるプロジェクトプレゼンテーションビデオ